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乱読乱文多謝 静岡史跡探訪ver.

スーパーカブと、史跡と、ときどき読書感想文

旅のおもいで・出会い その1

動物たち

 私は中学1年生の夏休みに、父親と兄とともに南アルプスに登った。悪沢岳、別名東岳という、荒川三山のひとつで、標高3141メートル、日本で6番目に高い山、だそうだ。3000メートルを超える山であるから、その山頂部はハイマツ帯に入り、背の低い高山植物ばかりで、高い樹木は育つことができず、一本もない。

 その山頂から眺めた夜明けの景色は、霧の晴れたとたんに広がった高く澄みきった空や、真っ赤に染まった赤石岳の姿など、今でも忘れられない。また行きたくとも簡単には行けない場所であるだけに、その思い出は憧れとなって今でも胸を締めつける。そしてその思い出に、心を和ませるような彩りを添えてくれているのが、あのときに出会ったライチョウの親子の姿だ。

 あの丸々とした姿は、親鳥でも可愛らしいのだが、その後ろ一生懸命追いかけていたヒナ鳥たちのヨチヨチ歩きときたら、本当に登山の疲れも忘れて見入ってしまうに充分なものだった。出先での出会いは様々だが、こうした動物達との出会いは格別だ。何せ、人間などどこにでもいるが、野生動物というものはなかなか出会える相手ではないからだ。そこで今回は、こうした動物たちとの思い出を、書いてみようと思う。

 国道362号線は、簡単にいってしまうと静岡県の中部から西部に、そして更には愛知県の豊川市に向けて、山間をはしっていく道なのであるが、オートバイに乗り始めた十代のある時期、この道を静岡市から、大井川の上流部にある谷あいの街である川根本町という所まで行き、あとは大井川に沿って海に向けて南下、そして国道1号線なり150号線なりで帰ってくる、というコースを、夜中に暇つぶしに走ることが、習慣になってしまったことがあった。

 愛車はカワサキのZ400GPという中型バイクで、1983年製だったから、当時すなわち1991年にはもうすでにかなりくたびれた年代物のバイクだったが、初心者であった私にも扱いやすく感じられるとても良いバイクであり、そのバイクでとにかく山間のワインディングロードを走ることが楽しくでしょうがなかったのだ。

 今でこそ整備が進み、静岡市街地から川根本町間の362号線もかなり走りやすくなったが、当時はまだ、林道をそのまま舗装しただけ、というような区間がほとんどだった。そんな道を幾度も走ったおかげか、あのZ400GPに、私がこれまでに乗ってきた10台のバイクの中で、最も強く「人車一体感」を感じることができた。

 それはさておき、とにかく夜中にそんな山奥の道を走るのであるから、時折野生動物にでくわすことがあった。タヌキや野ウサギなどだ。タヌキは、何だかヘッドライトに向かって走ってくるような感じで、怖い。ウサギは逃げる。素早いものだ。しかしもっとも驚かされたのは、あるときに出会ったイタチだった。

 道幅は狭く、急勾配な上に、極端なヘアピンカーブ、ということで、私はゆっくりとそのカーブに進入したのだが、突然、ヘッドライトの視界の中にイタチが走りこんできたかと思うと、タイミングを合わせるかのように私のバイクの前輪に向かってきた。急カーブを曲がっている途中ということで、こちらもそう簡単に減速できない。あれよあれよと両者は急接近し、私のバイクの前輪は、イタチの胴体を乗り越えてしまった。

 私も驚いたが、イタチのほうはもっと驚いたことだろう。一度は道路上に横倒しになった彼だったが、すぐに体勢を立て直し、そのまま薮の中に猛スピードで消えていった。あのイタチはどうなったのだろうか。私は未だに気にかかっている。まあ、あの時無事だったとしても、もうとっくに天寿を全うしているのだろうけれど。

 その後、となると、北陸に自動車旅行に行った帰り道に、白山でサルの群れに出会ったりなどもしたが、やはりなんといっても北海道だ。初めて北海道に上陸したときには、牛がいるだけで感激し、写真などとっていたが、あの土地には牛などは山ほどいることがわかると、もう柵のなかに飼われている動物になど興味はもてなくなる。

 キタキツネに初めて出会ったのはいつだったろうか。もう忘れたが、そんなに何度も会っている訳ではない。せいぜい三、四回だが、そのうち一回は、妻との新婚旅行の途中だった。雪解けの頃で、ひどく痩せてみすぼらしかったが、キツネはキツネだ。毛並みも悪くあんまり可愛くなかったけれど。

 エゾリスはよくみた。道端を走っている。不幸にも車にはねられてしまったエゾリスも時折みた。リスといえば、支笏湖畔のキャンプ場では、シマリスと出会った。バイクから荷物を降ろしていると、すぐ足元で何か食べていた。ペットショップでは見たことがあったが、野生は初めてだった。とても可愛かったが、動くと逃げられそうで写真もとれなかったのが残念だった。距離的には、そのとき持っていた唯一のカメラである携帯電話のカメラでも、充分にいい写真がとれたはずだったのだが。

 礼文島の最北部で出会ったのは、ゴマフアザラシの群れだった。三十頭ぐらいはいたと思う。海岸から程近い、岩場の浅瀬に、小さいのから大きいの、黒っぽいのや白っぽいのと様々なアザラシたちが、皆で寝転がって日向ぼっこをしていた。のどかな風景ではあったが、そうした平和なひとときを得るために、彼らが日々生き抜いている「生存競争」を思うと、感慨深いものがあった。

単に、その日向ぼっこの場所を確保するためだけにでも、彼らは戦わなければならないのだ。日々自由を戦い取ることこそが、彼らの生活というものなんだなあと、私はバイクを止めてしばらく彼らをみていた。旅先のセンチメントも、大いに私に働きかけていたとは思うが。

 こんなのんびりした出会いでないこともある。そう、あのイタチのようにだ。確か根室から海岸沿いを知床に向けて走っていたときだと思うが、林の中を抜けていくような道で、ちょっとしたカーブを何気なく抜けたそのとき、いきなり大きな鹿があらわれた。

 ぶつかる、と思った瞬間、向こうもビックリしたのだろう、慌てて反転し、林の中におどり込み、姿を消した。カツッという、蹄がアスファルトを蹴る音が聞こえたぐらいの距離だった。もしぶつかっていたら、イタチのときのようにはいかず、鹿も私も大変なことになっていただろう。ほんとうに危なかった。

 北海道では、「鹿飛び出し注意」の看板はいたるところにみられるが、私が鹿と出会ったのはそれが最初だった。なかなか会えず、他のライダーたちに「しょっちゅうみるよ」などといわれて、ずっと会いたかったのだが、三度目の北海道ツーリングにしてやっと訪れた出会いがこれだった。その後にはなぜか、牧草地に入り込んで草を食んでいる姿などを、よく見かけるようになったのだったが。

 なかなか会えなかった動物に、もうひとつ、タンチョウヅルがある。これは勿論、生息地が限られており、そこらへんを走っていていきなり鹿だのキツネだののように出会えるものではないはず、なのだが、実はそれに近いような形で、私は彼らに出会ったのだった。

 やはり2005年の三度目のツーリングのときに、ツルが見たい、ということで、釧路湿原の周辺の道路を走り回ったり、しまいには道路よりも湿原寄りを走っている、釧網線という電車に乗ってみたりもしたのであったが、いっこうに会えず、もう諦めてしまったころ、いきなり「そのとき」はやってきた。

 霧多布岬から、摩周湖のそば近くにある弟子屈という街に向っていたとき、だから、釧路湿原よりもずいぶんと東をはしる、なんの変哲もない道道(県でいうところの県道)を走行中のことだった。周囲にひろがるのは、もう見慣れてしまった牧草地ばかり。正直にいって、少々退屈な道だったのだが、その牧草地のなかに、私はあの真っ白な姿を見出したのだった。

 私のようなツーリングバイクばかりではなく、乗用車やトラックも通る、本当にどうということはない、近所には農家まで一軒建っている道の、すぐ脇の牧草地に、タンチョウヅルがいたのだ。私はあわててブレーキをかけ、バイクを路肩に停めた。

 眼の前、ほんの20から30メートル先に、二羽のつがいのツルが、ゆっくりと歩いていた。なぜこんなところに、と、周囲を見渡した私は、さらに驚かされた。道の反対側の牧草地にもさらに一羽、また、一番近いつがいのいるところから、防風林を隔てた向こう側のひろい牧草地にも三羽、合計6羽のツルが、周囲に散在していたのだ。しかも、三羽の組の内の一羽は、羽の色が茶色っぽかった。かなり距離があったのではっきりとはみえなかったが、多分、あれはひな鳥だったのだろう。

 一羽だけでいたツルは、すぐにどこかへ歩いていってしまった。私は、眼の前のつがいをしばらく眺めていた。そのすらりとした美しい姿に、魅せられてしまったのだ。いや、ただ姿が美しいというばかりではない。その動きの優美さといったらどうだろう。ゆったりとしていて、しかも凛とした気高さを一瞬たりとも失わないその動き。そのつがいは、その舞踏のような気品ある身のこなしを、二羽で完璧に調和させていた。

 つかずはなれず、長い足でステップを踏んでいたと思うと、突然、何の先触れもなく、互いに向き合い、羽を広げてクチバシを天にむけるあの動作を、二羽同時に行うのだ。それを何度も繰り返すのだが、そのタイミングがずれることは決してなかった。

 こうした同調は、たとえば人が訓練によって獲得する踊りの「技術」とは、きっと、根本からしてその性質を異にしているのだろう。我々には「理解」することなど決してできない何かを、あの二羽のタンチョウヅルは、お互いに「感じ」合っているのだ。私は小一時間も、その場でこの二羽の優雅な舞踏に見入っていた。背後を走り抜けていく車やトラックのことなどかまわずに。

 私がタンチョウヅルと出会ったのは、その一度きりだ。無論、もう一度会いたいとは思うが、こればかりは運まかせであり、いつかその機会が来てくれることを願うばかりだ。そして私には、長年会いたいと思っているにもかかわらず、いまだ会えずにいる動物がまだいる。それはクマだ。本州のツキノワグマもいいが、やはり、ヒグマに会いたい。しかし、場合によっては、鹿の飛び出し以上に危険な出会いになってしまう可能性があるところが、少々、どころか大いに気がかりなのではあるが。

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| | 2011-12-04(Sun)00:04 [編集]


旅する者の特権

こんにちは。

野生動物との出逢いは、旅の楽しみの一つですね。珍しい動物に逢うと、やたらとテンションが上がります。ぼくも川下りの最中や山に登ってるときに、いろんなやつらに出逢いました。だけどイタチには逢ってないなあ。うらやましいです。

クマは……
見てみたいけど、ばったり出逢うのは勘弁ですね。とくに北海道のヒグマは。

それと余談ですが、おととしの7月から10月、悪沢岳と赤石岳の間にある荒川小屋で小屋番のアルバイトをしてました。だからあの山域はぼくとっても特別な場所です。ライチョウの親子も見ましたよ。

道下 森 | URL | 2011-12-04(Sun)05:27 [編集]


Re: 道下森さん

道下さん、こんにちは。

私は、さわら島(字を忘れました・・・)から千枚小屋で一泊、翌朝千枚岳から尾根づたいに悪沢岳へ、というコースで、その後折り返して二軒小屋へ下りてしまったので、荒川小屋や赤石岳の方面には行けませんでした。
でも、道下さんの見たライチョウは、もしかしたら、私がかつて見たライチョウの、何代か後の子孫かもしれませんね(笑)

その後、私は山登りからはまったく遠ざかってしまいました。小屋番のアルバイトは、若い頃には一時期憧れたこともありましたが・・・実際にやるほどの根性は、私にはありませんでした。
数ヶ月、という期間を、「あの世界」で過ごすことができたひとたちだけが知り、見ることができるものも多くあるのだろうと想像します。うらやましいですね。

コメントありがとうございました。
では。

静磨 | URL | 2011-12-04(Sun)17:44 [編集]