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『ウィンザーチェア大全』


  歴史の小道具


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『ウィンザーチェア大全』 島崎信・山永耕平・西川栄明著
 誠文堂新光社 ISBN978-4-416-61307-8

 
 はい、調子にのってまた本を買ってしまいました。ようやく引越しを終えて、家財道具を増やすことよりも片付けることを優先し、ただでさえ少なかった貯金が限りなくゼロに近づきつつあるなかで、お金を使うことも極力控えるべきこの時期に、またしても訳のわからぬ買い物をしてしまった私に、我が心優しき妻もさすがに不機嫌を通り越して呆れ顔のご様子。

 しかし、アンティークチェアを最初にほしがったのは君じゃないかと開きなおるぐうたら亭主は、新居についてまだまだ検討して決めていかなければならない細かいことだとか手続きだとかが山ほどあるというのに、休日の昼間から寝っ転がってこの4500円もするでっかい本をニタニタしながら眺めているのである。

 その名の通り、一冊まるまるウィンザーチェアについて書かれた非常にマニアックな本である。先日、アンティークショップで、お店の方にいろいろとイギリスの古い椅子についてお話を伺ってから、何だか急に椅子について強い興味を抱いてしまったことについては少し前の記事に書いたが、中でもこのウィンザーチェアというものに、現在私、夢中なのである。




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 先日購入した四脚のアンティークチェアのうち、この二脚がウィンザーチェアと呼ばれるものになる。ピンクの方が娘のもの、黒いのが私の椅子である。一見、まるで違う椅子のようであるが、この二脚には共通点があり、その共通点が、ウィンザーチェアと呼ばれる椅子の特徴をなす、と考えてよさそうである。

 先日取り上げた鍵和田務著『椅子のフォークロア』においては、ウィンザーチェアを、アイバン・スパークなる研究家の言を引用する形で、

 「厚い木製の座板を基盤として、椅子の脚・貫・背棒などすべての部材が、直接座板に接合された椅子である」

 と、説明している。これだけでも、実際にウィンザーチェアをみてみれば、なるほどと理解できる。




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 つまり、こういうことであるが、本書『ウィンザーチェア大全』においては、その冒頭で、「ウィンザーチェアとは何か」という表題の元に箇条書きにしてそれを説明しており、さらに我々の理解を容易にしてくれている。曰く、


 ウィンザーチェアとは
 17世紀後半頃にイギリスで生まれた木製椅子

 [起源]
 古くからイギリス各地でろくろ職人や農民などによって造られてきた、ヴァナキュラーチェア(その地方特有の椅子)などのカントリーチェア。

 [基本構造]
 尻形の窪みをつけた分厚い木製の座板に、挽き物(主に旋盤加工された部材)の脚や背棒などが直接差し込まれた椅子。
 →背には笠木や背棒などが取り付けられる。
 →肘置きが設置されることもある。
 →補強のために、脚がには貫が施されることが多い。

 [種類]
 コムバックタイプ(櫛型)とボウバックタイプ(弓形)の2種類が基本形。
 →この2つの形を基に、時代や地域によって様々なタイプの椅子へと派生していく。



 すなわちウィンザーチェアとは、誰か名のある家具デザイナーが生み出したものではなく、地方の職人がそれぞれに作っていた椅子が、次第にその形を成をなす形で生まれたものである。

 なので、一見細い背棒などの印象から細密な造りがなされているかのようなのだが、実はその構造は実に単純で、ようするに板に穴をあけて、そこに脚だの背もたれだのになる木の棒を差し込んだだけの造りなので、ネジや釘などの金具は基本的には使用されておらず、部品数も少なくて木材の使用量もとても少ない。私が惹かれたのは、道具としての完成度の高さと、この素朴さとの絶妙なコントラスト、なのかもしれない。

 いずれにせよ、こういう本はその読後感想なんかを書き連ねてもつまらないし、実際の椅子を眺めてみるのが一番なので、以下、私の椅子をみてみようと思う。




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 形としては、「スクロール・バック(scroll-back)」と呼ばれるものになる。上記「分厚い木製の座板に云々」という、ウィンザーチェアの「定義」から外れるものではない。が、「スティック」などと呼ばれる細い棒を何本も立てて背もたれを形作る、上掲のピンク色の椅子のような「ボウ・バック」タイプの物と比するならば、どちらかというとこの「スクロール・バック」タイプは、変わり種的な形だとはいえるかもしれない(引用文にでてきた「コム・バック」も、基本的にはスティックによって背もたれを形作る)。ただ、決して希少なタイプだ、という訳でもないが。

 このタイプが登場したのは 19世紀に入ってからで、イギリスの産業革命最盛期とその時期が重なる。ウィンザーチェアの生産も、職人の仕事場での手仕事から工場での大量生産に移行し、工業製品としての性格を強めていくなかで生まれたこの「スクロール・バック』タイプは、従来品よりもデザインが「簡略化」されたものだ、と見ることは可能かもしれない。この私の椅子自体は、1890年代から1900年代ぐらいのものだという。




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 「スクロール・バック」という呼び名の由来となった、背柱の先端の形状。




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 笠木。かなり年季がはいっている部分。




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 このセンターステイの形状も特徴的。ベルトのバックルをモチーフにしているという。




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 背柱は、ゆるやかなS字にカーブしている。この曲線が、座り心地の向上にかなり貢献している。




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 座板。これまたかなり年季がはいってます。座面はあまり面積がない。この「スクロールバック・チェア」、元々は婦人用の椅子として生まれたらしいが、座面が小振りなのはそのあたりに理由があるのかもしれない。




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 座板裏側。背柱が座面を貫通している。制作過程において、背柱は長めに作り、座板から下にとび出した分については削り取るという手順をとっているようであるが、座板のほうまで削ってしまってある一方、削り取るべき背柱のあまりが少し残っている。キレイに仕上げようという意思は、どうやら当時の職人には稀薄だったようである。




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 脚、各部。七本の挽き物の組み合わせである。今、手づくりの挽き物でこんな椅子を作ればけっこうなお値段になるのだろうが、当時はきっと、ろくろ作業で量産できる挽き物は、手っ取り早くてありふれた材料だったのだろう。そういえば、この挽き物の形にも時代によって流行があるとかで、ここをみても作られた時代がわかるんだ、というよなことをアンティークショップの方が言っていた気がするが……もっとちゃんと聞いとけばよかった。

 全体に、後世の工業機械によるライン生産品とは、根本において違ったものであることは、私のような素人にも感じ取れるものがある。ハイウィッカム、という街で多く作られたことから、ウィッカムチェア、などとも呼ばれるというこの椅子、その百年をこえる半生のなかで、一体幾人の人間たちのお尻を支えてきたのか。城跡や宿場跡と同じく、これもまた、小さくはあれど「史跡」のひとつといい得るのかもしれない。

 いや、私としては敢えて「生き証人」とでも呼びたい思いだ。それだけの慕わしさを、この古い小さな椅子は確かに持っている。教科書に載るような歴史上の有名人物ではない、当たり前の庶民たちの暮らしこそが、人類史というものの年表のほとんど全てを埋め尽くすような、当たり前の姿だとみるならば、こうしたつまらない椅子のようなものこそは、その当たり前の姿そのものといえるのだからだ。


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