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『タバコの歴史』

タバコの歴史タバコの歴史
(1998/01)
上野 堅実

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タバコと私

 普段、居間の床に転がっている生後6ヶ月の息子は、最近、一度泣き始めると、私がだっこしてあやしてもなかなか泣きやまないようになった。そんなときは、妻に渡してしまうのが一番なのではあるが、妻も家事でなかなか忙しい。夕食の準備などしている彼女に、泣きわめく赤ん坊を渡そうものなら、間違いなく、かわりに家事をやれ、といわれるに決まっている。

 それはなんとしても避けたいグウタラな私は、息子を抱いたまま、隣の部屋に移動する。その部屋は、私の書棚がみっつ、大いに場所を取っているためにとても狭いのだが、息子はなぜか、この部屋にくると泣きやむことが多い。なので、私はこの頃はよく、この部屋で息子をあやしながら、書棚に並ぶ背表紙を眺めている。

 すると眼につくのは、やはり数多くの「積ん読」本だ。もう、自分でもうんざりするほどにたくさんある。しかしある日、ふと気付いたことは、今、非常な財政難にある我が家の家計では、新しく本を買うことができないのだから、それは逆に、この「積ん読」本を読むいい機会ではないか、ということだ。

 そこで手に取ったのが、この『タバコの歴史』だった。初版本で、発行が1998年2月1日とあるから、まあ、その頃買った本なのだろう。つまり13年も積んであった訳だ。これはもう、本当に(本に対しても、筆者に対しても)申し訳ない話なので、またしてもこのブログの本来のテーマからは外れるジャンルの本なのだが、ひとつ、記事を書いてみることにした。

 私は、元喫煙者だ。確か18歳ぐらいから吸い始めた。銘柄は一貫してハイライト、最初の頃は、二日で一箱ぐらいだった気がするが、すぐに一日一箱になり、一箱半になり、そしてあっという間に一日最低二箱が必要になり、そのまま、それが習慣になってしまった。

 やめたのは、二年ほど前のことだ。我が家には、妻の連れ子のウサギがいるのだが、そのウサギが、背中を怪我した。たいした怪我ではなかったのだが、傷を気にして自分でかじってしまい、治りが悪くなってしまった。そのときに動物病院で、先生に「ウサギがタバコくさい」といわれた。そして、そのにおいが気になって、傷口をかじったりもしているかも知れない、ともいわれた。

 これには、私も少なからずショックを受けた。こんなつまらない怪我でも、もし悪化したりなどしたら、ウサギのような小動物の場合はすぐに命にかかわることにもなる。で、その病院からの帰り道、車を運転しながら、助手席の妻に、「俺、ちょっとタバコやめてみようかな」といった。

 禁煙の決意、などというものではなかった。禁煙などできるとは思っていなかったから。ただ、どのくらい吸わずにいられるものか、試してみようと思ったのだ。取り出しかけていたハイライトを、またポケットにしまう。そしてそれきり、今日まで私は一本も吸っていない。

 約二十年の間、愛煙家であり、ヘビースモーカーであった私は、いったい何本のタバコを吸ったのだろう。そして幾ら、タバコに費やしたのだろう。吸い始めた頃、ハイライトは一箱200円だった。だから一日二箱で400円、一年で146000円だ。それが少しずつ値上りしていき、やめたときには確か290円だったと思う。去年の秋に、タバコ税がまた上がり、ハイライトは一気に410円になった。そのときほど、タバコをやめてよかった、と思ったことはなかった。年間299300円、恐ろしい金額だ。

 という訳で、私は、かつてはタバコを吸う立場にあり、今は、吸わない立場にある、ということになる。で、こうした立場から、例えばネット上の掲示板などでよく見かける、愛煙家と嫌煙家との果てしない論争などを眺めていると、なかなか趣深いものがある。

 まあ、それについて、ここでとやかくいうつもりはないが、今回読んだこの『タバコの歴史』という本に、その論争に似たようなものを見出して、ちょっと面白く思った。それは、新大陸から持ち込まれた「タバコ」なるものを、ヨーロッパが受容した、十六世紀頃の話だ。

 新大陸の先住民の文化だったタバコを、船乗りたちが旧大陸に持ち帰ると、それはあっというまに広まった。肉体労働者が、空腹や渇き、あるいは疲れを紛らわすために用いたのを発端に、貴族や聖職者にまで、タバコはその愛好者を持つようになっていったのだが、その伝来とほぼ同時に、タバコを嫌う勢力もまた、すぐ現れた、というのが面白い。つまり、この愛煙家と嫌煙家の論争というものには、500年の歴史がある、ということなのだ。

 当時の嫌煙家の主張を聞いてみると、新大陸の「野蛮人」の「悪しき風習」を真似るとはけしからん、といった、当時のヨーロッパ人らしい異文化蔑視からくる嫌悪感もあるが、
第一にはとにかく、臭いがたまらない、ということらしい。このあたり、嫌煙家の主張というものは、今も昔もかわっていないのだな、と思う。

 一方のタバコ擁護派は、今よりもずっと善戦していたようだ。なぜなら、タバコは身体に良いものだと、広く信じられていたからだ。それは空腹を忘れさせ、疲れを取り除くのみならず、頭痛や便秘などほとんどどんな病気にもきき、傷口に塗れば傷まで治し、何より、ペストを予防する、とのことで、ある場所では、ペスト流行時には、子供まで喫煙を義務づけられたこともあるらしい。これならばもう、タバコを堂々と吸い、誰にも文句はいわせない、という態度でも充分社会的に許容されただろう。

 この「迷信」が、医学的根拠をまるでもっていなかったのは勿論のことで、実際早くからそれは指摘されていたらしいが、現代に至り、かつての「万能薬」の害毒について、こんなにも「科学的に証明された」ものとして広まってしまい、愛煙家たちの劣勢が決定づけられてしまった感のある今となっては、もう「あのころはよかったね」としか言いようがない。

 ただ、タバコのリラクゼーション効果、これだけは確かに本物だ。勿論それは、疲れが取れる、というよりは、ニコチン中毒の禁断症状が収まる、というのがその理由なのだろうが、吸っている本人が「ほっ」とするのは事実で、あの感覚は、愛煙家(つまりニコチン中毒者)にしかわからないだろう。

 今となっては、「タバコのよいところ」はこれぐらいしか見当たらないが、しかし最初からニコチン中毒がなければ、この「効能」もあり得ない訳で、もしこの「ほっ」のために吸っているのだとしたならば、それは真夏に、エアコンのきいた室内の素晴らしさを知るために、用もないのに何度も炎天下に飛び出しては戻ってくるのと同じことで、それならばずっと室内にいたほうが、よりエアコンの素晴らしさを満喫できるのはわかりきっているのだから、結局「吸わない方がいい」という結論に達してしまうのが、実に悲しいところではあるのだが。

 しかしまあ、私も元はヘビーな愛煙家だったので、ここで「タバコなんか」などと宣うつもりはないし、愛煙家の楽しみを否定するつもりもない。タバコの臭いには、吸っていた頃よりはやはり敏感になったが、元々嫌いではないし、二十年間もハイライトを一日四十本吸っておいて、今更受動喫煙もヘッタクレもないと思っているので、隣で吸われても特に気にならない。

 ただ、愛煙家諸氏には、やはりマナーは守るべきですよ、とはいいたい。それが結局、自分たちの楽しみを守ることになる訳だから。そして、喫煙時には周囲を気にし過ぎるほどに気にしておいたほうがいいですよ、ともいいたい。特に嫌煙家を自称するひとでなくても、タバコの煙というものは、喫煙者が思う以上に気になるものなので。

 ところで、タバコをやめた二年前のあの日以来、一度も使わなかったものが、灰皿以外にもうひとつある。それは、愛用していた純銀製のジッポーライターだ。妻に、最初にもらった誕生日プレゼントだった。これをそこらへんに転がしておいたら、これまた何をいわれるかわからないので、ちゃんとケースに入れておいたのだが、今回、久々に取り出してみた。

 燻し銀、とはこういうものをいうのだろうか。刻印やへこみが黒ずみ、全体に何ともいえない風合いをもって、実にきれいだった。こういう小道具への愛着もまた、もしかしたら喫煙の楽しみのひとつなのかもしれない。まあ、将来、タバコを吸う吸わないにかかわらず、息子にでもあげようかと思っている。さて、今生後6ヶ月の息子が成人する頃の「タバコ事情」は、いったいどうなっているのだろうか。


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コメント


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はじめまして。

連れ子のうさちゃんのためにタバコをおやめになったなんて。目頭が熱くなりました。

我が家では、検査で犬のアレルギーの原因の一項目としてタバコが挙がっていたことから7年ほど経ちますが、うちの主人は、未だにタバコをやめてくれません。

キヨハラ | URL | 2011-05-12(Thu)21:41 [編集]


Re: タイトルなし

キヨハラさん、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます。

えー、タバコなんですが、おほめ頂いたところではありますが、
私の場合、自分でもあっけないほどにすんなりとやめられました。

ニコチン中毒だったことは確かだと思うのですが、
(なにせハイライト一日二箱ですから)
禁断症状みたいなものはほとんど感じませんでした。

理由はわかりませんが、とにかく、
私は禁煙のためにとくに苦労した訳ではないのです。

なので、「目頭が…」とかいわれてしまいますと、
ちょっと申し訳ないというか、何というか…

私の場合は、幸運だった、ということにしています。

静磨 | URL | 2011-05-13(Fri)00:57 [編集]


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