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スーパーカブと、史跡と、ときどき読書感想文

私とオートバイ・その4 Z400GP

 

アイデンティティ #1 (1991-1992年)


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 Kawasaki Z400GP(M1)
 1983年式
 空冷4サイクル直列四気筒399cc
 最高出力 48ps/10500rpm



 私は運が良かった、というべきなのだろう。路面にわずかなブレーキ痕すら残さぬまま道路外に飛び出し、しかも路面から1メートルほど低い所にある草むらにダイブして、その衝撃で失神、事故の瞬間のみならず、その現場までどうやって走ってきたのか、その記憶すらなくし、どのくらいの時間気を失っていたのかわからないが、失神から覚めてようやく草むらから這い出したところで路肩に倒れ込んだきり立ち上がれなくなり、救急車で搬送され、救急病院に運び込まれたにもかかわらず、私はそのまま退院してきた。

 何をどこへどうぶつけたのか、全くわからないのではあるが、頑丈な、サーキットでの使用にも対応したアライ製のフルフェイスヘルメットには、深さ数mm、長さ3cmほどのキズがついており、片方の靴はどこかへ飛んでいってしまった上に、左肘にふた針ほどを縫うキズ、おまけに、腰の辺りの背骨の一部がひとかけら、欠けてしまっていた。それでも、失神したためにかモヤモヤしていた頭がはっきりしてくると、何とか、自分で歩けるようにはなったのだ。

 無論、腰の痛みは尋常ではなく、例の時給はいいが体を酷使するバイトを休まざるを得なかった。しかし一週間後には何とか復帰できた。このキズは古傷となり、あれから20年以上が過ぎた今でも、時折私を苦しめはするのだが、それでも、私は日常生活をすぐに取り戻すことができた訳だ。

 だが我が愛車が受けたダメージは深刻だった。どうやら真正面からまともに衝撃を受けたらしく、フロントまわりはもう滅茶苦茶というレベルではなかった。バイク屋さん曰く、「修理するには最低4、50万円はかかるが、それで真っすぐ走るという保証はできない」という有様で、もう、直す、という選択肢はあり得なかった。なにせ、50万円では新車販売価格を超えてしまう金額である。

 ということで、せっかく手に入れたバイクを失い、またお古の50ccスクーター、DJ-1に戻った私であったが、それで懲りるということはなく、また次なるバイクを物色し始めた。もしかしたら、失神して事故の瞬間の記憶を失ってしまったおかげで、バイクというものに恐怖を感じずにすんだ、といえる部分もあるのかもしれない。しかしそれよりも、この三ヶ月で「バイクのある生活」というものがすっかり常態化してしまった、ということが大きかった。最早バイクがない状態というものは私にとって不自然な、「本来的でない」有様だとしか思われなかったのだ。欠落したものは補われなければならない。当然のように私は次の愛車候補を探した。

 そして事故から一ヶ月後。バイト中、移動する2トン車の助手席からぼうっと外を眺めていた私の眼に、一台のバイクの姿が飛び込んできた。バイク屋の店先に並んだ数台のバイクのなかに、鮮やかな緑色の車体。その日の仕事が早めに終わったのを幸いとばかりに、私はそのバイク屋に向った。

 一目惚れ、というものを、私は女性に対してはしたことはないが、この時の「出会い」はまさに一目惚れであった。カワサキのレーシングチームのチームカラーであるライムグリーンに塗装された、一台のバイク。ピカピカだったゼファーとは大違いの、いかにも年季の入った中古車。そのバイクを、私はまるで私に乗られるためにそこにあるように感じた。

 Z400GP。そのバイクのことを知らなかった訳ではない。あの人気漫画「バリバリ伝説」の、主人公の親友が乗っていたバイクなのだから。しかしそれに乗りたいと思ったことは一度もなかった。あの日、実際にその姿を目の当たりにするまでは。

 私はやはり運がよかったというべきなのだろう。これは後で知ったことだが、このZ400GPというバイク、1982年から83年の二年間しか生産されなかったために、生産台数が比較的少ないのだが、このライムグリーンのものはそのなかでも、鈴鹿4時間耐久レースの優勝を記念して生産された限定車で、極めて少数しか市場に出回らなかったシロモノだった。しかも、1983年製のその車体が、当時即ち1991年の時点で生産から8年も過ぎているにもかかわらずきちんと走れるコンディションを維持しており、しかも、おかしな改造をされることもなく全くのストック状態で、静岡などという田舎の中古車市場に現れた、というのはもう奇跡に近いような、僥倖という言葉がぴったりの出来事だったのだ。

 60万円、という値段が、だからボッタクリなのか妥当なのか、その判断は今でも難しい。当時みた中古車情報誌などでも、少なくとも限定色ではないGPでも50万以下ではなかなか買えなかったし、まあ滅茶苦茶な値段だったという訳でもなさそうだ。ただ、私はその値段になんの疑問も抱かぬままに、その場で購入を決めてしまった。その「希少価値」について、上述のように私はその時点では全く知らなかった。ただただ、その姿に惚れ込んでしまったのだ。

 購入して三ヶ月で廃車となってしまったゼファーだったが、借金なしで購入していたことが幸いした。さすがに二台目を立て続けに購入するためには、親に頭を下げてお金を貸してもらう必要があったが、二台分の借金返済を抱えることはせずにすんだのだ。事故からたった一ヶ月で、私は無事、ライダーに返り咲いたという訳だ。

 このZ400GPというバイク。生産期間が短かったことにはそれなりの理由があるように思う。無論本当のところはメーカーの人でないとわからないことではあるけれども、私としては、1982、83年という時代背景が関係していると思われる。ゼファーの記事のところでも書いたが、80年代前半というのは、その後の「レーサーレプリカブーム」という高性能化競争の前夜ともいうべき時期であり、このGPというバイクをよく見ると、その「移行期」の産物であることがよくわかる。

 あまり詳しく書くと、あまりにも専門的になってしまうし、第一、メカの専門知識など私にはありはしないので、詳しく書こうにも書けないのだが、その前時代である1970年代のバイクと、その後の「レーサーレプリカブーム」時代のバイクとの「中間形態」としての特徴が、このZ400GPというバイクには見られる。しかも、そのバイクの性格を決定づける、骨格というべき部分において。

 フレームはスチール製のダブルクレードル型で、これは従来のバイクの主流を踏襲しているのだが、GPはこれに、モノショック式のリアサスペンションを組み合わせている。これは二本サスが主だった前世代のバイクよりも、その後の世代から現代のスポーツバイクに至る系譜に属するタイプのサスペンションというべきだろう。ただ、アルミ製のツインスパー型など、もっと現代的なフレームと組み合わせるのが一般的なサス形式であり、前時代的なスチールフレームとの組み合わせは、このGPや、後継車種であるGPZ400F等のこの時期のカワサキ車の他にはあまり見られない。つまり、フレームはそのままでサスペンションだけ進化してしまった、まさに「移行期」といえるような形なのだ。

 無論、当時の最新技術をもって設計されていることには間違いはなく、メーカーもまさか過渡的モデルとして最初から設計、販売した訳ではないのだろうけれど、こうして過去の出来事として俯瞰的に眺めたならば、やはり「移行期的」であることは否定できない。そしてそれは言い換えるならば即ち「中途半端」だということで、あの熾烈な高性能化競争の時代においては、必然的に短命に終わらざるを得ないだろう。

 たった二年で、一度のマイナーチェンジすらされないままに生産が終了したオートバイ、Z400GP。そのバイクが、私の三台目の愛車となった。この「移行期」のバイクは、私にとってもあるいは、「移行期」の愛車だといえるのかも知れない。だが「移行期」とは、ただ過ぎ去るばかりの時期ではない。次のある段階への重要なステップであり、あるいは変化のときであることから、より印象的な、思い出深い時期であるということもできる。

 そうだ。Z400GP。このバイクのことを想い、またこうして文章にしたりなどすることに、私は喜びを禁じ得ない。このバイクに乗り始めてからの数年間こそは、私が最もオートバイという乗り物に夢中になった時期だ。そして同時に、このバイクに乗っていた頃の自分を思い出すことには、今でも疼くような苦しみを覚える。多分、社会の内にあって、他の人間たちの間に生きるということに、この時期ほど苦しんだ時期はないだろう。あるいはこういうべきだろうか、他者と共に生き、生活することに苦しみ、それを厭うが故に、ひとりで乗り、楽しむことのできるバイクに夢中になったのだ、と。

 確かに、私にとってはある重要な意味をもつことになるひとつの時期が、このバイクとともに始まった。

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